建築家が考える集合住宅

2022.06.16

どこに住むべきか。
多くの人にとって悩める問いではないだろうか。住む場所だけでなく、住まいの形にもいろいろな形があるが、費用面、管理面などのメリットから集合住宅を選択をしている方も多いだろう。
地方出身で東京に縁故がない私も、どこに住むべきかと考えたあげく、現在は郊外の集合住宅を選び暮らしている。

私が住んでいる「宮崎台ビレジ 」は建築家・内井昭蔵氏設計で、8000m²の敷地をぐるりと住棟で囲った大きな中庭をもつ集合住宅である。114戸のビックコミュニティーが共有所有する豊かな中庭は50年を経て成熟し、戸建住宅では獲得できない特別な特徴=固有性をもつ集合住宅となっている。

私が建築を学んだ90年代には、家は寝るための機能を持った最小限のもので、他の生活の場は街の中に求めるというノマド的な生活が主題となった時代であったが、地方の庭付き一戸建てで伸々育った私には、そのような都市的生活の意識に馴染むことが難しかった。

暮らしは、所属共生の意識 =「場」の意識 があることで居心地がよくなる。混沌たる世界のなかで個人が自分自身の場を持っているという感覚を得られる何かが必要だと思うのだ。

荻窪ロウハウス

私自身、戸建住宅の設計の他、賃貸併用住宅や投資型の共同住宅、コーポラティブハウスや地方型共同住宅など様々な形態の集合住宅の設計に関わっている。

かつての団地のような低密度で沢山の共有の場所を作る計画は、現実的には容積率消化を求められる経済原理のなかで難しくなっているが、建蔽率の低い低層住居地域内における小さな集合住宅の設計では、専有部分とは別の、生活の拠り所となる固有性のある「場」をもつ設計を試みている。

住まいの延長上に、もう一つ「場」があることで所属共生の意識が芽生え、より豊かに暮らしていけると感じている。

inver-lith 撮影:牛尾幹太

私が手掛ける集合住宅では、その「場」をいろいろな形式の庭として設計している。
二子玉川の国分寺崖線内の緑豊かな斜面地に建つ「ニコタマテラス」では、既存の地形を活かし住民が共有する緑豊かで静かな山の中の広場のような庭をつくったり、地方転勤者のために計画した「inver-lith 」では地方ならではのセカンドハウスのような外部空間とのつながりを楽しめるよう全住戸プライベートな中庭を計画した。「荻窪ロウハウス」では、7軒の住戸を立体的に組み合わせ、全住戸庭付き一戸建てとしている。お互いの庭を借景として楽しめるよう計画し、庭続きのコミュニケーションが発生することを期待した。

ニコタマテラス 撮影:中山保寛写真事務所 中山保寛

固有性のある「場」を作る意識は、戸建住宅を設計する時も同じく意識している事ではある。ただ規模の大きい集合住宅では、面積を共有することで、所有できる財産は大きくなり、戸建てのそれと比較できない価値をもつこともあると思う。

「人間が住む場所には他と区別される固有のもの「場意識」*がなければならない」 と説いたヴォルフ・フォン・エッカルトのよう、拠り所となる「場」を大きく提供できる集合住宅も、都市生活での快適さを得るための一つの選択肢となりえるのではないだろうか。
* ヴォルフ・フォン・エッカルト 著「A PLACE TO LIVE」より

荻窪ロウハウス

荻窪ロウハウス