住まいと子供の関係性

2021.06.30

子供にとっての「家」

住まいに必要な広さの感覚は、その人が育った家の環境や大きさが基準になっていることが多いように思います。例えば設計の要望を伺っていると、施主夫妻の間でも「それは広い、狭い」という判断基準が子供の頃に暮らした家の記憶によって異なるのが判ります。私自身も空間体験として自分が子供の頃住んでいた家を思い出すこともあり、幼いながらに「もっとこうだったら良いのに」などと日頃から考えてきたことが、建築家の道に進むきっかけだったのかもしれません。

子供部屋のある家を設計している時、私たちが提案する空間で子供は何を感じながら育つのだろうと想像すると、感慨深くもあります。幼少期から思春期までの大切な時間を家族と、時には親密に、時には自然にさりげなく関係を持てる家でありたいし、自分の家の片隅にはこんな心地よい場所があったなど、すこしでも良い記憶が残せればと思います。

photo:Masao Nishikawa

ちょっと離れてお互いが見守る関係を

仕事環境の変化から自身の生活への意識を変えざるを得ない状況の中で、「住まいかた」そのものに悩んでいらっしゃる方も多いかもしれません。しかしこのことはある意味、家はただ寝るための場所というのではなく、それぞれが求める居心地のよい場所とはどんなものなのかを家族全員が考える、絶好のチャンスでもあります。

一つの家の中に長い時間、家族全員が顔を合わせていれば時には喧嘩もおこり、ストレスも生まれてくるかもしれません。でもだからといってそれぞれが個室に篭りっきりになってしまわないよう、むしろ家にいることで自然に関わりが持てるような場所であって欲しいと思います。

子供部屋も完全に閉じずに一部はリビングにつながっていたり、顔を見なくても気配を感じられるような関係をつくり、互いの安心感を感じながら勉強や仕事をできるのもいいものです。また、かつては家の隅に配置しがちだった書斎ですが、あえて皆が集まるダイニングやキッチンが見えるような使いやすい位置でもうまく配置すれば、邪魔することなくむしろお互いの活動を見守る関係を生むことも出来ます。必要なのは広さではなく、適度な距離感です。小さくても家のどこかに、家族を感じつつも自分の世界を作れる場所を見つけられれば、それがそれぞれの拠り所になるのではないでしょうか。

photo:Masao Nishikawa、 photo:Akinobu Kawabe

家族の食卓

近頃では外食を控え、自宅で家族が揃って食事をする機会が増えたという声も聞きます。1日に何度も集まる食卓、慌ただしく済ませてしまうこともあるかもしれませんが、どんな風に食事の時間を過ごしていますか?

食卓から外の景色が見えれば、家族と一緒に窓の外を眺めつつ、季節の移り変わりや天気など、他愛もない会話が自然に生まれるでしょう。また窓がなくても、好きなものを飾ったりする場所があればそれも話のきっかけになるかもしれません。家の中に気に入った椅子があったり家族の人数より一回り大きなテーブルを置けば、普段から空間に余裕を持って使え、そこは花や写真などを飾る場所にもなりますし、友人が集まりやすい場にもなります。

暮らしの中で、その家に合った内外の風景をつくることで居心地のよい食卓となり、家族の関わりを豊かにすることができるのではないでしょうか。

photo:Masao Nishikawa

子供を取り巻く環境は変わり、ますます「個」のあり方が問われる世の中でも、家というのはいつでも家族とともに守られる、安心できる場所でなくてはなりません。そして子供が考えたり創造していくための居場所・拠点にもなり得る「家」のために何ができるかを、これからも模索していきます。