住まいを開く

コロナ禍の影響で加速する、 住宅を開放することで見出される豊かさの価値

2020.06.17

突如として、回線を介して外の世界に繋がりはじめた住空間

新型コロナウィルスの感染拡大によって、私達が受け入れてきた社会システムにも大きな変化がもたらされました。こと働き方に関しては、多くの企業が業務をテレワークに移行しましたが、ZOOMなどのオンライン会議ツールの充実により、基本的には外部から侵されることのなかった私的領域である家の中が、回線を介して突如として外の世界に繋がってしまう状況に、ある種の違和感や居心地の悪さのようなものを感じた方も多かったのではないかと思います。今後、働き方の多様化はコロナ禍の影響も相俟って加速していくことが予想されますが、それに伴い、私生活と仕事の境界は曖昧になり、リアル・バーチャルともに、私生活が外の世界に触れる機会もまた増えていくことでしょう。家づくりにおいても、今後そうした状況を考慮していく必要性が高まっていくかもしれません。

土間をテーマの中心に据えて設計した「東玉川の集合住宅」

自宅を仕事場とするワークスタイルをSOHOと呼びます。私共で取り組んでいたSOHOをターゲットとした「東玉川の集合住宅」が今年の初めに竣工しました。これは土間をテーマの中心に据えて設計した集合住宅ですが、各住戸内にサッシを介して共用廊下・外部のバルコニーへと連続する大きな土間空間を設けています。土間空間は、サッシやカーテンによって、共用部側・外部バルコニー側、あるいは室内の部屋側に対して開いたり閉じたりと、オン・オフを切り替えることで、京町家の「みせにわ」のような場所や、広めのインナーテラスのような場所へと変化させることができます。生活空間としての快適さと、働く場としての快適さは重複する部分もあればそうではない部分もありますが、限られたスペースでより多くの快適さを包含し、実現していく上では、空間の柔軟性・伸縮性によって、状況に合わせて環境と身体をバランスさせる考えは有効です。これがもし、「仕事場」という名の閉ざされた箱を住戸内に加えていくような考えでつくられたとすれば、スペースが細分化されるだけで、生活の場も働く場も互いに豊かなものとはならないでしょう。

生活を外へと開いていく

先の土間空間のような場所は、二つの異なる領域の間にあって、その相互の関係を結び付けます。外部との接点とも言えるような場所ですが、そうした場が存在することで、働く場は生活空間の中に定着し、結果として、生活そのものを外へと開いていく契機を生み出します。そうした、住宅を開放することで見出される豊かさは、今後益々重要になるのではないかと考えています。