住空間を運用するということ

住空間をよりフレキシブルに紡いでいくことが、 人生をより豊かにしていく

2020.06.17

コロナ前も後も、変わらない生活 「将来的にはこういう働き方になると思っていた」

コロナウィルスのおかげで、在宅ワークの世界が到来し、住空間が大きく変わろうとしています。
そんな中、スタッフこそリモートワークになったものの、悲しいくらい変わらなすぎる日常を送っているのが弊社(株式会社TATTA)です。

2012年に隈研吾さんの事務所から独立した直後に、一番最初につくったコワーキングスペース(Andozaka COIN)の入る3F建ての築5-60年の建物に、住居兼事務所の完全職住密接状況で2歳児と新生児の子ども二人と暮らしています。わざわざ混雑の中を通勤して、疲弊したり風邪をもらったり、家族との時間を失うみたいな働き方なんてナンセンスだと思っているうちにこういう生活スタイルになりました。将来的にはみんなこういう働き方になるんじゃないかと考えていましたが、今回のことで思ったよりそういう時代が早く来たな、と感じています。おそらくアフターコロナの社会でも、完全に元には戻らないでしょう。

働くことを含めた暮らしとは

簡単に言ってしまうと働くことを含めた暮らしというのは、住空間をきちんと運用する必要があるということです。これまでは仕事と暮らしが切り離されていたので、住空間は基本的に仕事上オフの空間で、家族全員がそれぞれ別のことをしているという状態はレアケースでした。この状態が当たり前になるこれからの住空間では、運用がうまくいってないと思ったら運用方法を変えたり、模様替えして空間のつくり方を変えたり、もっと簡単にかける音楽を変えたりする必要が生じます。そうして人と人との距離や時間のデザインをすることで生まれるのが暮らし方です。

もしかしたら今までほとんど家にいなかったパートナーが突如いつも家にいることで、かなり戸惑っている方もたくさんいらっしゃるかもしれません(笑)。我々、夫婦ずっと一緒でよく平気だねということをたびたび言われます(笑)。しかし逆に聞きたいんですが、もし仕事場と家が夫婦で同じ場所だったとして、ずっと険悪なまま何年も過ごせますか?無理です(笑)。いい大人なら相手の機嫌を伺いながら、価値観をすり合わせながら暮らすワケです。逆に離婚の原因の第一位は今も昔も時間が合わずに価値観がすれ違っていくことから起きています。
だから覚えていて欲しい大事なことは、人の関係が先にあるワケではないということです。空間が先にあって、その運用によって人の関係がつくられていくのです。建築家が建売住宅じゃなくて、それぞれの家族に合った、運用がしやすい住空間の設計が大事だと思って仕事にしているのはそのためです。

コロナ後に、ひとつだけ変化した住空間

残念ながら現状我々が暮らしているのは借家なので、大きく空間に手をいれたりすることはできませんが、それでも毎月のように家族(今はほぼ夫婦ですが)で住空間の運用について話しています。働いてくれているスタッフやアルバイトとの距離感とか子供の遊び方みたいなものも観察した上で、どうも習慣としてうまく行っていない、この場所をほとんど使えていなくて勿体ない、みたいな話が出た場合には、すぐに模様替えを実行して、人と人の距離関係を調整しています。
たとえば、通勤時間を読書に当てていた人が、家で本を読む場所が仕事場になってしまった後に、気づくと本を読む時間が取れてないみたいなことは、結構起こり得る話です。そうした習慣が失われてしまう時には、仕事する時間と読書する時間をまた分けるというのは結構大変で、まず別の空間を設えてあげてそこを読書スペースにして、改めて食後に時間をつくるみたいに運用した方がうまくいきます。
コロナ後の最近の我々の住空間の変化についてひとつだけ書くと、寝室に机をつくりました。というのも小さな子供が寝ているうちが集中して仕事をできる時間なので、5時から起きて仕事をしているのですが、時々子どもが早く起きて仕事にならないと面倒なんですね。なのでベッドで寝ている子どもを観察しながら、時折子どもが早くに起きそうになると、まだ寝ていていいよと布団に押し戻して、朝日がよく入る東向きの窓際で仕事をしています。机からベッドを挟んで奥の窓から隣のモッコウバラがよく見えるのも気に入っています。ベッド側からも腰かけられるので、気分転換に昼間ここで仕事をする時などには、小さな子供と向かい合って、子どもの迷路の手伝いをしながら作業しています。

人生をより豊かにしていくために

リモートワーク時代、職住近接時代の住空間は、ここはXXする部屋みたいな一対一の関係から、XXしたりXXしたりする日当たりのいい場所みたいに、これまでよりいろいろな役割を持っていくと思います。それぞれの居場所どうしの関係も、外部を挟んだり、音的に切れる必要があったり、より複雑になっていくでしょう。いずれにしても家族というクラスターがより一層大事なファクターになっていくこれからの社会にとって、住空間をよりフレキシブルに紡いでいくことが、人生をより豊かにしていくだろうということは間違いなさそうです。