外のように、街のようにを合言葉に。

暮らしに「そと」を潜り込ませる

2020.07.15

暮らしに「そと」を潜り込ませる

住宅設計は「リビングは何帖欲しいですか?個室は何部屋?」などと、ついつい内部空間の情報交換に終始しがちです。そりゃあ中に住むために建てる訳だから気持ちはわかりますが、1坪や2坪広かろうと狭かろうと、完成した住宅にはどこにも「数字」は書いてありません。建築は完成した瞬間、体感という数字では表現できない身体感覚に切り替わるのです。

これまで極小の住宅から少し大きめの住宅、集合住宅やお店、仕事場付きの住宅など100件以上の様々な設計させていただいてきました。敷地形状も、ロケーションも、家族構成やご要望ご予算も千差万別でしたが僕が唯一徹底的に、手を替え品を替えてはそれぞれの中に潜り込ませてきたのは、暮らしと共にある「そと」です。「そと」というのは、必ずしも「外部にある庭」だけを指すものではありません。そとを感じる窓辺、まるで街の続きの様な玄関、家の中なのにそとにあるような素材、内でもありそとでもあるようなテラス、といった外や街の気配を暮らしの中に引き込む様々な場所やしつらえの事です。

地面をどう残すかが、ポイント

僕は一軒家に住む事を選んだ家族が、獲得できる最大の財産は地面であり、生活する街そのものだと考えています。そんな「そと」と連続した住宅は、日々の暮らしが街や自然と連続しているのだ、と体感でき数字では表現できない伸びやかさを獲得する事が可能です。小さな敷地を購入したのに、まるで街を手に入れちゃったような感覚です。
そんな体験を実現するためにまずは設計の仕事をいただくと、要望を聞いてプランを描くのと同時進行で、地面をどう残すか?を考えながら筆を進めます。その残した地面に生えた草木が、道行く人、近所の子供たちをもワクワクさせ、家の中からは、「もしかしてこの街全体が私達の家かも?ラッキー!」と感じさせるような生活空間。そのために多少部屋が小さくなったって大丈夫。むしろ、引けば引くほど、不思議と広がりを獲得できるという矛盾した事実を数々の設計を通して実感してきました。

しかし正直に言えば、半分以上は頼まれてやってきた訳ではありません。だから時には「そ、そ、そんなに我が家は庭やテラスいりませんから、、、西久保さんっ!」なんていうやり取りが、打ち合わせの恒例。このエピソードがいつも完成後の飲み会のネタになります。つまりは建主が欲しい内部空間と、僕らが提案する余計な外部空間の押しくら饅頭の結果が、私たちの家になっていくのです。おかげでこれまでたくさんの「そと」のバリエーションを作る事ができました。

さてこれから家づくりをお考えの皆さまへ。

とはいえ、どうしたら良いものか?どう伝えたらいいのか?プロじゃないから分かりませんよね。答えは簡単です。建築家に要望を伝える際、欲しいお部屋の前に、「外のような」とか「街のような」とかの枕詞をつけてみるのです。例えば「外のようなリビング」「街のような玄関」にして下さい、などです。この二つの魔法の言葉により、どんなにステイホームが長く続こうとも、快適でストレスのないコロナ後の住空間がたくさん生まれていくといいなと考えています。