Creative thinkerの住処『SHINKA』

2022.05.19

独りで暮らす、二人で暮らす、家族で暮らす。そのかたちは様々ながら、賃貸マンション生活の経験が無いという方は希少と思われる。
これまで人生のステージに合わせて様々な集合住宅に暮らした生活者としての目線から、賃貸レジデンスを丁寧につくり考え続けてきた。

現在は私自身が設計した賃貸レジデンス「SHINKA」に居住し、その建物内に事務所も置いている。完成から4年間、コロナ禍さめやらぬ現在、
居住者とのコミュニケーションを通じ、自ら住み・働き、感じていることを記してみたい。

深い軒のテラスが印象的な最上階  写真:ジェレミーセガル

都市風景を借景し江戸に想いを馳せる

ここ中央区に限らず、お隣の建物がとても近い都市部。借景など願うべくもないという街中の立地でも、何か手がかりはあるはずで、
このSHINKAにおいては江戸時代の八丁堀、現在は道路へと変化した風景を各住戸から感じられる工夫を重ねた。

休みなく動く街の様子は、とりわけ夕景に美しい姿を見せ、目を見張る瞬間がある。

道路を水辺に見立て舟が行き交ういにしえの風景に想いを馳せる  写真:黒住直臣

音楽と暮らす・ライフスタイルに働きかける『静かな』場所

24時間楽器を弾いても、隣室でぐっすり眠れるレベルの高性能を備えた防音室を各戸に備えている。これはリビングの生活騒音がまったく入らない『静かな空間』を持っていると言い換えられる。

住人に音楽家は数人で音楽を趣味とする方々が大半である。周囲に音大などはなく市場調査からは生まれでない賃貸であろう。
この4年、常に満室が続いているばかりでなく、それぞれの居住年数がとても長いことが防音賃貸の特徴といえる。

防音室は、軽い運動やヨガなど、その方々なりの使い方をされている。赤ちゃんの居る家庭ではここを寝室利用というご家庭も。
動画撮影、録音、Tuberにはもってこい。コロナ禍のここ数年は、生活騒音のないリモートワーク空間としておおいに活用されている。

左:ピアノ教室と結んだリビングづくり|右:音楽編集スペースとして活用  写真:黒住直臣

つながりを創る

エレベーターが最上階に上がるとパッと拡がる開放感。『都市に住んでいる』という実感を味わえる庭園をしつらえた。

リモートワークのリフレッシュに住人が自由にくつろげる空間として喜ばれている。コミュニティという耳ざわりのよい言葉は使い方を気をつけねばならないが、
このテラスは偶然に住人同士が知り合える場所。『さりげないコミュニティ』を目指している。

都市居住ならではの開放感を味わえるスカイテラス  写真:黒住直臣

共用の意識を醸成する

地下には小規模ならが50人程度が着席可能なホールがあり、住人または住人を介しての友人・知人が、音楽を中心とした活動を行なっている。

ただしここは無人で、予約システムと住戸の鍵をIOTで連動させ、使用した方が責任をもって、片付け・施錠、消灯を管理し、備品であるピアノも美しく保つ。

自分では持てないが、共同することで得られる価値を分かちあう。『共用』という意識をそれぞれが発揮し、美しく過ごす。

地下にある共用空間・SHINKA HALLは、天然木の床と打放コンクリート、高い天井高が印象的な空間  写真:黒住直臣

古びない価値を計画に滲ませる

私たちが目指したのは『古びない価値』のある賃貸レジデンス。数十年先にもここに暮らしたいと『選ばれる住宅』で在り続けることと、
収益を生み出し続けなければならない賃貸事業は矛盾しない。『あの頃暮らしたマンションよかったね』と記憶に残る住空間を賃貸でも提供したい。

これから10年50年と継がれてゆくこの事業の未来に期待しつつ、自身で計画したこの建物の成長を見続けて行きたい。

SHINKA|サイト|https://www.ic-style.com/shinka

リボンウインドウでリズミカルに構成したファサードデザイン  写真:黒住直臣