「GILIGILI」 〜取り残された土地に〜

2022.08.08

これまで何件か集合住宅を計画してきて、クライアントの皆さんを羨ましく思っていました。関東圏など都市圏で土地を所有している人は強いなあ〜っと。

10年ほど前、自分も家を建てようと思い、土地を探し始めました。最初は緑があるところがいいと思い、これまで住んで馴染みのある世田谷区、中野区、目黒区、品川区、大田区と、・・・そしていっそのこと鎌倉へ行こうか?毎週のようにあちらこちらと通い、週末は不動産週末。疲れてあきらめかけてたところ、偶然インターネットで見たことのある土地の写真を見つけました。しかもネットオークション。

土地は、東急東横線・新丸子駅の東口商店街を抜けた綱島街道沿いで、普段、事務所のスタッフと食事の後にその土地の前を通っていました。実はその土地、綱島街道の拡幅計画に伴って、もともと住宅地だった土地が切り取られ、街道沿いに奥行き5m ほどで何十メートルもの細長い空地が何ヶ所か数十年に渡って取り残されていました。土地はその一画、おおよそ5m×11m、55.72平米(17.16坪)です。

そして、落札してしまいました。(笑)

綱島街道の道路幅員は25mと広い上に商業地域のため、周囲には10階建てほどの中高層の集合住宅が立ち並んでいます。住宅として建てるには、交通量が多く車の音と振動がひどいので、上階に住むしかないなと。

計画は6階建てで、1階に駐車スペースとエントランス、2、3階を賃貸オフィスに、4〜6階を自邸にして、庭がない分、屋上を使えるようにしました。

構造は、前面道路の車の騒音と振動を軽減できて、この地域のゲリラ豪雨や水害から守るため、3階までを鉄筋コンクリート造として、その上にプランが自由になり、壁が薄く出来るスチールパネル構造を載せる構造形式を採用しました。スチールパネルは「恵比寿の住宅」で実証済みで、通常の鉄骨造に比べ外壁を薄くできる上に、遮音性と気密性に優れています。

自邸は、4階まで一気にEVで玄関へ、4階をゲストフロアとして離れの和室とシャワールームを設けた水周りを用意しました。両親が来た時や飲み疲れた友人、スタッフが使っています。5階はLDK と書斎コーナー、プロジェクターと大きなスクリーンを用意して友人を招いてサッカー観戦をしています。

6階はプライベートスペース、寝室とウオークインクローゼット、浴室と水周りにして、上階へ上がるほどプライバシーが高くなるようにしました。寝室の一角に私の書斎コーナーを設けましたが、2012年の竣工以来一度も座ったことがありません(笑)。

屋上ペントハウスまで繋がる直通階段、プランの四隅に吹抜けを効率よく設けることで住居全体に縦方向の空気の流れをつくり、住戸内の隅々に風が流れ、上部から光を階下にまんべんなく届くように計画しました。

屋上は、周囲の壁を立ち上げプライバシーを確保しました。立ち上げた壁に部分的にピクチャーウインドウを設けているので、遠く羽田空港の離着陸や多摩川の花火が見えます。そこでタープを張って食事をしたり、当初は計画になかった温室をDIY で造り、今では毎日サボテンや多肉植物の成長を楽しんでいる日々です。

そうです、気づくと「GILIGILI」に住み始めて新しい趣味ができていました。

気になる住宅ローンは、2・3階の賃貸収入でほぼ返済できています。
「GILIGILI」の場合は、延べ床面積のおおよそ半分が賃貸床面積で、ローン返済と同額くらいですが、計画建物の床面積をより多く賃貸床面積にできれば、更に生活の補助になると思います。事実、私のクライアントの一人は、会社を辞めて自分の集合住宅の管理会社を立ち上げてしまいました。

私が入手した土地は、親が地鎮祭に来て見て笑ったほど小さい敷地です。

既成概念にとらわれず、たとえ小さな敷地でも、用途や環境を読み取り縦方向に自由に設計すると、豊かな生活を得ることができます。また、都心部では下階がどうしても陽の入る時間が短くなり、上階に上がるほど陽が入り風が抜ける開放的な環境になります。

集合住宅の魅力は、賃貸収入はもちろんのこと、グランドレベルから離れて大きな空を会得でき、視界が抜け遠くの風景も楽しめます。プライバシーは守られ、開放的で自由な生活を立体的に愉しめることではないでしょうか。

□ 軽量溝型鋼によるスチールパネル構造
75x450x4.5(6.0)の軽量溝型鋼のリブの間に9×75のFB を挟み込む構成を基本にしています。4階と5階は、軽量溝型鋼の板厚6.0を使い、6階とR 階は板厚4.5にしています。また、吹抜けやプランによって応力が大きくなる所では、軽量溝型鋼のリブの内側にFB をその応力の大きさによって板厚を調整して追加対応しています。