彦根 明さんが手掛ける旅館を訪ねて

現地に赴き赤裸々にインタビューしました!

2023.06.09

登録建築家の彦根明さんが手掛けた「雲仙宮崎旅館」を訪れ、現地でインタビューさせていただきました。

90年以上続く老舗旅館が新たに生まれ変わるにはいろいろな思いが交錯します。ここではダイジェスト版としてまとめました。インタビューの詳しい内容はYoutubeをご覧ください。

出会いのきっかけはザ・ハウスの本だった!

ザ・ハウス:
やってまいりました長崎県にある「雲仙宮崎旅館」。
90年以上続く老舗旅館の建て替えプロジェクトを登録建築家・彦根明さんが設計監理をされましたが、実に5年半の歳月を費やしたということですね。

彦根さん:
はい。このプロジェクトが始まった頃の写真を見返すと若いんですよ、笑。

ザ・ハウス:
空港からここまでの間に通ってきた高速道路もまだできていなかったと言ってましたね。

彦根さん:
そうそうそう。生まれた子供が、小学校にあがる歳月ですから年も取りますよね、笑。

ザ・ハウス:
旅館オーナーのお施主様との出会いをさきほど伺って鳥肌が立ったのですが、なんとザ・ハウスが2008年に登録建築家と作った第一作目の本「最高の建築家25人」をオーナー様が偶然手に取ったことが彦根さんとの出会うきっかけになったと。その中の彦根さんの事例がとても良く、考え方含めてイメージに合っていたため、直接オファーがあったのですよね。

彦根さん:
そうですね、はい。

この旅館が創業93年目なんですが、建て替えが決まった時に、旅館を専門で設計する事務所が順番に紹介されたらしいんですけど、普通の旅館に建て替えてもしょうがないということで、オーナーであるお施主さんご自身で建築家を探すことにしたそうです。そうする中で、ザ・ハウスの本を偶然手に取り、僕の事例を見てくださったんですね。建物の雰囲気もピンときたということでした。「最高の建築家25人」の本には建主の視点で建てた時にどう感じたかなどがインタビューでたくさんあるんですよ。で、その言葉にとても共感されたようです。これはまさに「スピリチュアルな出会い」と言ってくださって。

実はお施主さんがうちを選んでくださった理由というのも、その前の2件のザ・ハウスで建てたお客様の家が特に好きだったそうです。だから全てが線で繋がっていくような不思議な縁を感じました。

ザ・ハウス:
本当にスピリチュアルな出会い、ご縁ですね。線に繋がるきっかけを作ることができて私たちも嬉しいです。

ザ・ハウスが出版した1冊目の本

建物のインスピレーションはどうやって生まれるの?

ザ・ハウス:
旅館のどこからも素晴らしい景色が臨めますね。
建築家が敷地に身を置くと、イメージが降りてくる瞬間があるといろいろな建築家から聞いたことがあります。それが5分で降りてくる時もあれば、何日もかかる場合もあるとも。

彦根さん:
僕も土地によっては、建て主さんと話していくなかで見えてくる場合もあるんですけど、ここは土地のポテンシャルがとにかく高いので、来て見た途端に決まるというか、これだけの財産(景色)をどれだけ活かせるかが勝負だなと。

国立公園の中の豊かな自然の中、さらに広くて立派な庭園があって。これをどう活かすかっていうことにつきるっていう。実際に、最初の印象がほぼそのまま形になっています。

あとは、実は間口がすごく狭くて道路付けがよくない敷地形状なんですね。これまでは駐車場が無い旅館で、入口に停めてスタッフが別の場所まで運ぶスタイルだったんです。その方法をあえてやめて、部屋の数だけ駐車場を確保したいというご希望がもう一つのテーマでした。

スペシャリスト集団が生み出す空間

ザ・ハウス:
いろいろなタイプの違うお部屋を見せていただて、全てのお部屋の「癒し」を体感したいと思いましたが、これだけの大きな規模となると、彦根さんだけではなくて、いろんなスペシャリスト、例えば照明デザイナー、インテリアデザイナーもこのプロジェクトに参加されたのですか。

彦根さん:
インテリアコーディネイターの友人がいて、一緒に空間の特性を生かしてくれるような家具や小物を設えました。 以前ザ・ハウスさんにご縁をいただいた温泉旅館のリノベーションプロジェクトがあって、その時にインテリアコーディネイターさんを入れたら、家具がもうバッチリ。それによって建築の価値が上がるようなレイアウトをしてくれたので、今回もその人に最初からお願いしたんです。だから5年間通ったなかの、4年半ぐらいはその人も一緒に来ています。うちのスタッフと僕とその人と。 最初の方は図面もすごい量だったので、もう一人外部の事務所にも手伝ってもらって。

国立公園の中なので、事務的な処理を地元の設計事務所にも協力してもらったり、設備設計を入れたりして。だからいただくものもありますけれども、出ていくものもたくさんあるんですね。外注費がだいたい半分くらい、笑。

ザ・ハウス:
こんな赤裸々なお話しちゃって大丈夫ですか、笑?

彦根さん:
はい、笑。

ザ・ハウス:
実際には楽しいことだけではなくクリアしなくちゃいけない、胃が痛くなるようなこともたくさんあったと思いますが、完成してオーナーであるお施主様の反応はいかがでしたか?

彦根さん:
この奥まった決して便の良い場所とは言えない立地。一番奥だし、山の上だし。 お施主さんは観光協会の要職もしている方なので、旅館の市場を広い目で見ることができる人なんですが、箱根の値段は取れないっていうようなことをよく言っていたんですね。やっぱり物価も違うし、ターゲットの客層とか、エリアで値段が決まるからということで。最初はこのエリアの一般的な価格設定だったんですが、出来上がったのを見て、どんどん価格設定が変わって。気に入ってくれて良かったと思っていただけたんだなと思いました。

ザ・ハウス:
温泉の質がものすごくいいんですけれど、確かに奥まった立地で知る人ぞ知るっていうエリアですよね。ですがこのエリアでも他の有名建築家の旅館が工事中でしたし、某有名ホテルとかも出来ていますね。5年後にはさらに有名温泉街になってこの旅館も予約の取れない人気のお宿になっているのでしょうね。

彦根さん:
そうですね、そうなることを願っています。

ザ・ハウス:
今日はいろいろなお話をお聞かせいただいてありがとうございました。帰る前にもう1回お湯に入ってこの美しい空間と景色を目に焼き付けてきます!