大事なものだけを残した家
E様(京都府京都市)
自分に適した広さと、自分が本当に必要なものだけが備わった住空間が欲しいと考えられたEさんは、2004年10月にザ・ハウスに来店されました。
建築家・長坂 大さんは、住まいに対しての現実と願望の距離を把握され、判断を求められた際にYES・NOを迷わずに伝える事が出来る施主としてのEさんの姿勢を信頼し、提示された厳しいコストに対して、どこまで許容できるかを探る処から打合せを進めていきました。長坂さんを信頼しながら任せていたEさんは、2006年4月の完成時、全容を初めて見た自分の家となる目の前に建つ建物に感動します。
竣工時が完成ではなく、より自分の身体に馴染む家になるように考えながら、日々続いていく家づくりと現在の暮らしを楽しんでおられるEさんにお話しを伺いました。
家を建てようと思った経緯は?
趣味で始めたバイオリンがきっかけです。当時住んでいたワンルームマンションでは気兼ねして室内で弾けず、晴れの土日だけ公園で練習していました。
また「生活が変わるかもしれない」と思い、仮の生活の気分でワンルームに住んでいましたが、家やマンションを購入して趣味を満喫している独身の友人を見ていると、このままでは人生がもったいないと思いました(笑)。
じわじわと次の生活を考えはじめたことに並行して、家を考えるようになったようです。
当初から建築家に依頼しようとお考えだったのですか?
まずマンションと建売住宅をチェックしましたが、役割の決まった幾つもの部屋は一人暮らしの手に余り、標準装備の最新設備や凝った外装や内装も必要ないと気づきました。
私の手に負える小さくて余計なものがない住空間を考えると、自然と建築家に依頼するしかなかったのです。
また、販売価格に含まれる建築費以外の人件費や宣伝費などに盲目的にお金を払うなら、素人ではわからない図面や現場をきちんと見てもらい、その後もお付き合いいただくことになるであろう建築家に設計・監理費としてお支払いする方が、私の性分に適っていました。
あとは、完成品を購入しておしまいにするよりも、家づくりを経験してみたいと思ったこともあります。
建築家・長坂 大さんにはどんなご希望をお伝えされたのですか?
夜10時頃までは消音器なしでバイオリンを練習できること、ネコを飼う予定であること、仕事をしているので昼より夜に居心地がいいこと、女性一人でメンテナンスできる簡単な造りであること、エアコンが嫌いで階段が好きなことなどです。結構多いですね(笑)。
あとは、十分とはいえない予算を提示して、建築可能ですか、私の要望を面白いと思っていただけますかと、逆にお尋ねしました。
実はザ・ハウスさんを訪問する前に、テレビ番組や雑誌などで長坂さんの作風を調べて半分決めていましたので、断られたり、価値観の異なる方だったらどうしようと思っていました。
打ち合わせは基本的な空間の使い方の話が多く、内装の色調や素材などは、長坂さんのご自宅の雰囲気が好みだったので、ほとんどお任せしました。
オープンハウスの日に始めて全容を見て、こんなお洒落なところに住んでいいのかとびっくりしたくらいです(笑)
実際に生活していかがでしょうか?
広いのにこぢんまりしていて、居心地はとても良いです。
予算の関係でほとんど家具がなく、箱のような空間の状態で住み始めたので、今のところ以前の生活よりは不便だったりします。ワンルームの狭さに慣れた人間が、大きなランドセルをもてあます一年生みたいに慣れずに戸惑っている感じです(笑)。
帰宅してから部屋を眺め、どういうふうに暮らそうか、こういう風にもできるなと思い描いてます。引越日から住みやすい設計が一般的だと思うのですが、私は最小限度の家が完成してから新しい生活の設計を始めたので、本当に必要な家具などを購入して生活パターンに落ち着く1、2年後にお答えしたいところです。
あと計算以上にバイオリンの音が外へ響くので、引き続き相談にのってもらっています。
ザ・ハウスを利用しての感想は?
雑誌やネットなどで建築家の連絡先がわかっても、やはり直接連絡するには勇気がいります。
相談無料の仲介役としてはもちろん、設計だけでなくローン手続きや登記などの相談にものっていただき、全ての判断を一人でしなければならない私にとって心強くてありがたい存在でした。
何よりも私の望みが夢物語や高望みでなく、第三者から見てもなんとか実現可能だと後押しして下さったことに感謝しています。ザ・ハウスさんのHPの実現可能かどうかの計算式だけでは、いつも計画の見直しを余儀なくされていましたから(笑)
これから建築家と家を建てる方に一言
時間にかなりゆとりを持ち、心に充分ゆとりを持ち、お財布にもちょっとゆとりを持って家づくりに臨まれることをお勧めします。
一大決心だったので、かなり気負っていましたが、建築家と施工業者と共に家を建てる場合、仰々しい名の「施主」はお客様ではなく、家が建つことに必要な人の輪の中の一つと思ったほうがいいような気がします。人と人が幾重にもつながって家は建つことを実感しました。
あとは、諦めないことですね。
土地も建物も真に望むものを見据えて諦めさえしなければ、時間がかかっても不思議と願いはかなう気がします。
私にとっての家づくりは、次の生活を冷静に考える機会でした。また望む住空間をモノで購入せずに人の力をかりて形にできた経験は、家同様に得られた大きな収穫です。
はじめにEさんとお話しして、どんなことをお感じになりましたか?
お会いする前は、あまりに厳しいコストを聞いていたので、どちらかというとお引き受けするのは無理ではないかと思っていました。
しかしお会いして、住まいに対する考え方、要望がはっきりされている方だなと好感を持ちました。願望と現実との関係に幻想を抱いていない印象がありました。これは普通とても難しいことなのです。
「いざとなったらしばらくはみかん箱でご飯を食べていてもいいんです。」
このような決然たる言葉には、心打たれました(笑)。
これはなんとか実現しなくてはいけないなと。
具体的にはどのような形でご要望に応えていったのですか?
Eさんがどのようなイメージの家を望んでおられるかというより、どのような「新築」環境を許容可能なのかをお聞きするところからはじめたように思います。
基本的にはゆったりとしたワンルームで、最小限に厳選された設備だけを設けるという方針です。素材等は、それまでに私が設計した家をいくつかご存知でしたので、目標はよくわかりました。可能かどうかは別に(笑)。
バイオリンの練習のための防音環境というのが一番困りました。要望の筆頭にあるにもかかわらず、防音性能とコスト等の条件がうまく合わないからです。
結果的には、特別なもの、たとえば防音扉を付けたりはしていません。一般的な建築部品で防音にも有利なもの、たとえばペアガラスなどを減額のために中止しない、といった対応を積み重ねていくようにしました。
このような進め方は相互の信用とコミュニケーションの機会がないと難しいですね。実際には思ったよりも音が聞こえるという現状があり、引続きカーテンなどの対応策を話し合っています。
Eさんとのお打合せはいかがでしたか?
様々な判断とその理由が明快だったため、いつも気持ちのよい打ち合わせでした。
自分で決めることと、こちらに任せてもらえることとの区分もわかりやすかったように思います。
家づくりに対する意気込みが、欲望の拡大に向けられていない点がすばらしいですね。
普通は予算内でできるだけ多くのことを実現してもらおうとするのが施主です。
それは当然の権利であり、傾向でもあるのですが、Eさんは違っていました。
それでも、最終段階の納戸追加はけっこう苦労しましたけど(笑)。
これから建築家と家を建てる方に一言
設計の打合わせはひとつひとつ細部をつめていく作業に多くの時間を使います。
しかし、実際の家の満足度は、それらを統合する「住まい」というものの考え方やイメージに大きく左右されるように思います。
この点において、建主と建築家との関係が大きく影響するのではないでしょうか。
データ
- 建設地
- 京都府京都市
- 竣工日
- 2006年4月
- 設計
- 長坂 大
- 施工会社
- サクジ工務店
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 87.78平米(26.6坪)
- 生活スタイル
- 単世帯住宅
- 撮影
- 沼田俊之
- 種類
- 新築
本体価格
総工事費(税別)から、それぞれの敷地や建主の事情によって変動する解体工事、仮設工事、杭・地盤改良工事、引込工事、外構工事、冷暖房・空調工事、 その他建物本体に固定されていないものの工事を除いた金額。実際にかかる費用よりも坪当たり10~30万円ほど安く見積もられます。
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